ネタバレ感想「Winny」法廷バトルは必見!事件に興味がなくても楽しめる。

 エンタメとしてもノンフィクションものとしても面白い。傑作かも。

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  • エンタメ
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  • 映像
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  • 演技
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  • テンポ
    5

評価:

目次

「winny」の概要

(97) 映画『Winny』予告編 3月10日全国公開 – YouTube

あらすじ

殺人に使われた包丁をつくった職人は逮捕されるのか——。
技術者の未来と権利を守るため、
権力やメディアと戦った男たちの真実の物語。

2002年、開発者・金子勇(東出昌大)は、簡単にファイルを共有できる革新的なソフト「Winny」を開発、試用版を「2ちゃんねる」に公開をする。彗星のごとく現れた「Winny」は、本人同士が直接データのやりとりができるシステムで、瞬く間にシェアを伸ばしていく。しかし、その裏で大量の映画やゲーム、音楽などが違法アップロードされ、ダウンロードする若者も続出、次第に社会問題へ発展していく。
次々に違法コピーした者たちが逮捕されていく中、開発者の金子も著作権法違反幇助の容疑をかけられ、2004年に逮捕されてしまう。サイバー犯罪に詳しい弁護士・壇俊光(三浦貴大)は、「開発者が逮捕されたら弁護します」と話していた矢先、開発者金子氏逮捕の報道を受けて、急遽弁護を引き受けることになり、弁護団を結成。金子と共に裁判で警察の逮捕の不当性を主張するも、第一審では有罪判決を下されてしまう…。しかし、運命の糸が交差し、世界をも揺るがす事件へと発展する——。

なぜ、一人の天才開発者が日本の国家組織に潰されてしまったのか。
本作は、開発者の未来と権利を守るために、権力やメディアと戦った男たちの真実を基にした物語である。

映画『Winny』|公式サイト (winny-movie.com)

出演・監督・ジャンル等

  • 出 演 :東出昌大, 三浦貴大, 皆川猿時, 和田正人, 木竜麻生, 吹越満
  • 監 督 :松本優作
  • ジャンル:ノンフィクション, ドラマ, 法廷劇
  • 上映時間:127分
  •    :日本
  • 公開年 :2023年

以下「Winny」のネタバレあり。

「Winny」感想①2時間越えを感じさせないテンポの良さ

 ノンフィクションものであるため退屈な映画だろうなと事前に覚悟していたが、全くそんなことなく、エンタメ作品としても仕上がっている。 

 本作は127分となかなか長い映画ではあるが、その長さを感じさせないぐらいテンポよく進んでいく。winnyを開発するところから映画は始まるのだが、その10分後(体感なので間違っているかも)には開発者の金子勇氏の逮捕される場面になっており、無駄を省いて飽きさせない工夫がなされていた。

ノンフィクションならではの面白さ

 金子氏は純粋かつ警察にとても協力的であり、それ故に警察の不当な取り調べの罠にかかってしまう。事前に弁護士から「自分が納得しない調書には絶対にサインしないでください」と言われていたのに、警察から「協力してくれ」と頼まれて自分の言い分と異なる、警察の都合の良い調書にサインしてしまう。また、「警察が用意した文章を書き写して署名した」という重要事項を弁護士に聞かれるまで伝えないなど、色々なところで弁護側にとって不利な行動をしてしまう。

 これがフィクションだったら、「味方がバカすぎて窮地に陥る」であったり、「警察はこんなことしないだろ」と「脚本ありきの展開」に見えて、観客を萎えさせてしまうが、ノンフィクションだからそういった不快感はない。むしろ金子氏の純粋で良心的な人格を表現する一場面としても機能していたし、警察の狡猾な捜査方法に恐怖したりと、とても良い展開となっている。

良質なミステリーのような構成

 本作は常に金子勇氏や弁護士の視点でのみ語られており、警察側の視点は一切ない。そのため、「何故警察は金子氏を逮捕したのか?」「何故不当な取り調べをしてまで有罪に仕立て上げたのか?」といった部分が謎のまま進んでいくのだが、それを法廷の場で徐々に明らかにしていく点は、良質なミステリーのようでとても面白く構成されている。

二つの別事件が交わる見事な脚本

 さらに、winny開発から地裁判決までをメインストーリーに、合間合間に愛媛県警の裏金問題がサブストーリーとして差し込まれる構成なのだが、最終的に一見無関係だった両者の事件がつながるところはとてもドラマチックであり、そのように両者の事件を組み合わせた脚本は見事である。

「Winny」感想②法廷でのやり取りが痛快!

 本作をエンターテイメント作品に昇華させている要因は、法廷での論争である。これがメチャクチャ面白い。特に刑事弁護のスペシャリストである秋田弁護士の尋問は必見で、弁論で警察相手に噓をつかせて矛盾を暴くシーンは痛快である。これが実際の法廷で行われたというのだからそれもすごい。

 この秋田弁護士は本当に魅力的で、渋い落ち着いたおじさんなのだけど、どこか茶目っ気がある魅力的なキャラクターに仕上がっている。「尋問は”ラァイブ”ですから」はこの作品を象徴する名言のひとつだろう。

タバコを吸う渋い秋田弁護士
タバコを吸う渋い秋田弁護士のイラスト

「Winny」感想③京都府警による不当逮捕の理由は?

 劇中ではさらっと一言紹介しただけだったが、京都府警が金子氏を目の敵にした理由は「京都府警がwinnyを通じて捜査情報を流出」させたためである。実際にはwinnyそのもので情報流出したのではなく、winnyを通じて感染したウィルスにより流出したものであるが、winnyの責任にすることで警察のメンツを保とうとしたのである。

 当時、公務員(知る限りでは警察や自衛隊)は私物PCで仕事をしており、仕事で使用したPCを自宅に持ち帰ることができた。勿論、仕事上のデータを削除しないと持ち帰ってはいけないという内規はあったが、持ち帰る前にPC内を点検する仕組みもなく、多くの公務員が仕事のデータが入ったPCでオープンネットワークにつないでいただろう。当然そんなことをしていては、winnyを使用せずとも情報流出してしまうリスクは高い。(現在は私物PCで仕事はできない上、仕事のPCの管理は厳重になっている)

 このように、そもそも私物PCを仕事に使用している組織の体制が情報流出の主原因であるにも関わらず、京都府警はwinnyの開発者に責任を擦り付け、体裁を保とうとした。一方で、実際に情報流出させた巡査に対する処分は「ウィニーが削除されるなど裏付けが取れない」として著作権法違反容疑での立件を見送り、懲戒処分の中でも最も軽い訓戒で済ませたのである。どこまでも身内に甘く、メンツのためなら他者に不当な権力を振るうことを厭わない腐った組織ではないだろうか。

「Winny」感想④ダウンロードしかできないwinnyを見て、何故警察はがっかりしたのか?

 物語序盤、警察が金子氏の家宅捜索をした際、金子氏のPCにあるwinnyをチェックして「アップロードできへんやないか」と言い、金子氏は「ダウンロード専用なので」と返す。それに対し警察は不満顔になるのだが、この一連のやり取りの意味は以下の通りだ。

 当時の法律では、著作権侵害はダウンロードに適用されず、アップロードに対してのみだった。警察は家宅捜索として金子氏のPCを確認し、違法アップロードをしていれば、それで逮捕をしたかったのだ。しかしその目論見は外れたため、「著作権侵害の”満えん”を目的にwinnyを開発した」という趣旨の署名を書かせ、著作権侵害の幇助として逮捕したのだ。

 このように、winny開発者の逮捕をありきとした京都府警の無茶苦茶な行動が、金子氏の技術者としての貴重な時間、ひいては日本のITの未来を奪ってしまったのだ。

「Winny」感想⑤金子勇氏は本当に「著作権侵害の予見」はなかったのか?

 金子氏は「著作権侵害を目的にwinnyを開発したのではない」というスタンスである。では、「winny開発・公表により著作権侵害が”満えん”」することを予見できなかったのか。私の見解だが、彼は明らかに著作権侵害が拡大することを予見したうえでwinnyを公表したと思われる。

 根拠はwinnyと言う名前だ。

 彼がwinny開発を最初に公表したのは、ネット掲示板である。そして、その書き込んだ掲示板のスレッド名は「MXの次はなんなんだ?」というもの。

 ここでいうMXとはwinMXというファイル共有ソフトのことである。当時、winMXというファイル交換ソフトが世界的に流行っており、winMXを通じてファイルの交換が行われていた。音楽や映画、漫画など著作権を侵害するものが多く交換されていた。

 winMXの特徴として、自分がアップロードしているファイルを誰がダウンロードしているか見ることができ、気に食わなければそのダウンロードを停止することができた。そのため、気軽にダウンロードが完了することができず、チャットでやり取りして物々交換をしなければならなかったり、そもそも匿名性が低いため逮捕のリスクが高いなどの問題があった。

 そういった不満があるため「MXに代わるソフトないの?」という要望のようなスレッドが立った。そして、そういったスレッドに書き込んだ金子氏は、winMXの次世代ソフトだからwinny(mxをアルファベット順に一つずつ前にずらすとnyになる)と名付けたのである。そしてwinnyは、winMXの不満点であった匿名性の低さやダウンロードの成功率の低さを改善したものであったため、日本国内で流行ったのだ。

 勿論、彼がwinnyが著作権侵害に利用されると予見してようがしてまいが、彼の逮捕は不当なものであることには変わりはない。ただ、本作の金子氏は「そういったことに気が回らない純粋な人」という面が作中至る所で表現されており、彼が書き込んだスレッド名や、winnyの名前の由来について省いている。金子氏を少々”聖人化”しすぎている面があるのだ。そういった金子氏に不利な面も描きつつ、それでもなお不当逮捕であることを表現してほしかった。

「Winny」感想⑥高裁・最高裁は描かれなかった意味とは?

 再審でどのように無罪を勝ち取っていったのか、世論や法廷の空気はどのように変わっていったのかが気になったが、本作では語られない。この意図について監督兼脚本家の松本氏は以下のように語っている。

脚本執筆について。 取材期間は約4年。当時の裁判資料7年分を全て読み、この映画で何を描くべきなのか必死に考えました。法廷モノ映画で求められるラストで無罪を勝ち取ったカタルシス。しかし本作ではそれを徹底的に排除しました。この裁判に本質的な意味で勝者はいないのです

松本優作/Twitter

 高裁、最高裁の判決が気になる方は、以下の記事に弁護士の方が分かりやすく解説しているので、興味があったら是非読んでみてほしい。

最後に

  • ストーリー
    4
  • エンタメ
    4
  • 映像
    4
  • 演技
    5
  • テンポ
    5

評価:

 映画を見終わって色々な感情が交錯した。エンタメとしては面白かったが、ノンフィクションとして、現実に起きたこととして見ると、とても悲しい気持ちになる。「もし警察が金子氏を逮捕しなかったら日本のITはどうなっていたのか」、「もし裁判が無ければ金子氏はまだ死んでいなかったのではないか」、「裁判の間、日本の技術者たちは思うように活動できなかったのではないか」等、金子氏の逮捕により失われたものは、余りにも大きい。

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